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砂糖を焦がせば薫る日々

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ホワイト・ピュア・チャイルド


「ホワイトデーの由来って知ってる?」
 学校からの帰り道、突然真稀ちゃんが問い掛けてきた。
 ぼくは反射的に、手に持った鞄の中身を思った。まるで見透かされたような言葉に、顔がかっと熱くなった。
 彼女はぼくの方を見向きもしない。並んで歩きながら、しかしそれはぼくがペースを合わせているだけであって、彼女に並んで歩こうという意識はないだろう。
 だからこちらの赤面も気づかれずに済んだ。ぼくはほっとしながらも、その素っ気なさに寂しくなった。それはそれで哀しいものだ。
 それから考えた。
 ホワイトデーの由来?
 バレンタインデーの由来なら、以前テレビの雑学番組で放送したことがあったので知っている。たしか、バレンタインとかなんとかいう司教か誰かが殉職したことに由来する。はず。名前間違ってるかもしれないけど。で、お菓子メーカーの戦略で、チョコレートを贈る習慣ができたんだったかな。ずるがしこい。
 今年のバレンタインは散々だった。
 やっぱり中学生ともなると、小学生のときより色気づくものらしく、ぼくはクラスの女子からまったくもらうことができなかった。
 唯一の戦果は、幼馴染みの真稀ちゃんから受け取ったもので、丁寧に「義理だから」というお墨付きまでいただいた。泣きたい。
 でももらえたこと自体はやっぱり嬉しかった。貴重な一個ならなおさらだ。母親からのポッキーはカウントしない。
 料理上手な真稀ちゃんの手作りチョコは、本当においしかった。義理にもかかわらず手作りなんて、真稀ちゃんて昔からそういうところ優しいんだよね。
 とにかく、一ヶ月前のバレンタインはそんな結果だった。
 そして今日。ホワイトデー。
 大事な大事なバレンタインチョコのお返しに、ぼくはいろいろ試行錯誤した。
 そうして出した結論は、「こちらも手作りで応えよう」というものだった。
 去年まではせいぜい500円のチョコを買ってくる程度だったけど、今年は違う。お金はかけてないけど、労力を費やしているので心がこもってる。
 ホワイトデーのお返しはチョコに限らないらしいけど(キャンディとか)、ぼくはチョコを選んだ。下手に変なものを買うより、失敗しないだろうしね。いや、手作りという時点で不安に思われるかもしれないけど。でもちゃんと作ってきた。大丈夫。
 ……そう覚悟を決めて、放課後を迎えたというのに。
「由来……?」
 なんだろう。何かあるのかな。
 バレンタインに関係があるとすれば、やっぱり恋愛的な何かかもしれない。何かお返しをする習慣がどこかの国にあって、どこかのお菓子会社がそれを利用して売り出し始めたんだ、きっと。きたない。
 最近ではあまり義理チョコという言い方はしないらしいけど、でも真稀ちゃんがくれたのは義理チョコでいいだろう。本人が言ってるわけだし。その義理チョコにぼくもしっかりお返しをするわけで、これはいわば義理返しチョコ。ギリギリの予算で心を込めて作った義理返しチョコを義理堅く渡すぼく。メーカーの策略に騙されているわけじゃないからね、言っておくけど。
 しばらく考えたけど、何が由来かまるでわからなかった。というか、考えたこともない。バレンタインの由来すらあやふやなぼくには見当もつかない。
 首を振ると、真稀ちゃんはこちらを向いてにっこり笑った。
 つい見とれてしまう笑顔だった。
「欧米には、そんな習慣はないんだって。日本とか韓国とか、こっちの方だけらしいよ」
「……そうなの?」
 え、でもホワイトデーっていうじゃん。横文字じゃん。
「なんかね、ホワイトは純潔とか純愛の意らしいの。で、禁止令に背いて結婚しようとしたカップルが、一ヵ月後に改めて愛を誓い合ったのが由来なんだって」
「……それが由来?」
 聞くだけだと、特に変な由来じゃないと思う。
 でもどうして日本だけ。
「どこかのお菓子やさんがね、お返しにって商品を売り出すための商業戦略に設定したんじゃなかったかな。要はこじつけ」
「詐欺じゃん!」
 騙されていたみたいだ。それも長い間。あくどい。
 別にいいんだけど。全然悔しくないんだけど。
 ううー。
 真稀ちゃんは慰めるような優しい声で、詐欺は言いすぎだよとたしなめてきた。ひどい。
「で、そんな戦略にまんまと引っ掛かってしまったサキちゃんは、一体何をくれるの?」
「意地悪だ!」
 おもしろそうな顔でぼくを見つめる真稀ちゃん。どS。
 今日はずいぶんいじめてくる。本当は優しいのに、いつも以上にぼくをからかってくる。
 まあ慣れたものなんだけどさ。
「そんな意地悪を言うマキちゃんには、お返しなんてあげないよ」
「えー、せっかく作ってきたのに?」
 ぼくはその言葉に固まった。
 なんで知ってるの?
「おばさんに訊いてリサーチ済みだよ。まったくツメが甘いなあ。男たるもの常に鉄の爪を装備してなきゃ」
「ツメ違いだよ! ぼく、武闘家になっちゃうよ!」
 というかお母さん勝手にばらさないでよ。
「大丈夫、一度失敗して黒焦げクッキーになったことまでは知らないから」
「筒抜けすぎる!」
「それをおじさんに食べさせるという凶行に走ったことまでは、さすがのおばさんも教えてくれなかった」
「冤罪だよ! もったいないからって無理やり食べさせたのはお母さんだよ!」
「二度目はちゃんとできたって言ってたよ。味見したらおいしかったって」
「つまみ食いしたのお母さんだったのか!」
 数が合わなくておかしいと思ったんだ。まったく。
 そんな馬鹿話をしていると、真稀ちゃんは不意にぴたりと足を止めた。
 慌ててぼくも立ち止まる。
 真稀ちゃんはおもむろに、ぼくの方へと向き直る。
 それからまた、にっこり笑った。
「というわけで、お返しひとつ、くださいな♪」
 楽しそうに両手を差し出す。
 ホワイトチョコのように白い手は、ぼくが作るクッキーよりずっときれいに見えた。
 ぼくは鞄からラッピングした袋を取り出して、その手のひらにささげるように、そっと置いた。
 真稀ちゃんは、笑みを深めた。
「ありがと♪」
 うきうきした様子で、袋を抱える。
 そのまま口を縛っているリボンを解き、一枚だけつまんだ。
 ぱく、っと。
 ほお張って、味わって。
 真稀ちゃんは。
「40点」
「ええええええええ!!」
 辛口評価を突きつけてきた。
 いやいやいやいや、苦労して作ったのに40点って。
「し、失敗しちゃってた? まずかったとか」
「40点満点だからね」
「…………」
 まぎらわしいよ。
 中途半端にボケないでほしい。すべってるよ。
「うわ、反応薄っ。まったくキミはつまらない人間だね」
「ぼくがすべったみたいになってる!?」
「ひょっとして映す価値無し?」
「抜き打ちで格付けされちゃった!」
 ぼくが律儀につっこむと、真稀ちゃんはけらけら笑いながら、二枚目を口に放り込んだ。
「うん、40点満点のクッキーはおいしいね」
「その言い方やめてくれない?」
「なんでー? 満点だよ? サキちゃんがテストで取ろうと思っても、到底取ることかなわないよ?」
「大きなお世話だよ!」
 自分は成績いいからって調子乗ってるな。真稀ちゃんのくせに。
「でも、本当においしいよ」
 急に真面目な口調になって、真稀ちゃんは言った。
 ぼくはなんだか恥ずかしくなって、思わずあさっての方角に顔を逸らした。
 それでもちらちら目をやると、真稀ちゃんは、その表情はちょっと大人っぽくて、すごく凛として映った。
 ぼくよりもずっと大人びて見えた。
 さびしいと思ったのは、ぼくが真稀ちゃんに追いついていないからだろうか。
 幼馴染みで、大切な友達。
 ぼくは真稀ちゃんが好きだ。
 でも真稀ちゃんはどうなのだろう。ぼくと同じように思ってくれてるかな。
 大人びた表情を見てると、不安になってくる。
「こーら」
 デコピンされた。
「痛っ、なにするの?」
「なに暗い顔してんの」
「……えーと」
「女の子の方が、成長は早いんだよ。だからそんなに心配しないで」
 真稀ちゃんは顔をぐっと近づけて、ぼくの目を覗き込んできた。びっくりしてのけぞると、さらに近づいてきて、
「マサキくん」
 名前で呼ばれた。
 あだ名のサキちゃんじゃなくて、真咲って、ちゃんと名前で。
「そりゃあキミは、背も低いし、成績も下だし、名前だって女の子みたいな漢字使ってるし、決して鉄の爪を装備している武闘家とは言い難いけどさ」
 ぴっと、真稀ちゃんはかっこよく人差し指を立ててみせた。
「私はちゃんと、キミをオトコノコとして見てるから。そんなに不安がらなくても大丈夫だよ」
 そう言う真稀ちゃんは、どこかさびしそうに見えた。きっとその顔は、ぼくがさせているんだろう。
 もっとかっこよくなりたいなあ。冗談みたいに月並みな願いを、ぼくはほんの少しだけ真剣に願った。
 手作りのクッキーは満点をもらったけど。
 できればいつも満点でいたい。40点のぼくを見せたい。
「もう少し背が高くなりたいなあ……」
 小声でつぶやくと、真稀ちゃんに笑われた。
「背は今のままでもいいと思うな」
「だ、ダメだよ! 真稀ちゃんの方が高いなんて」
「だって似合わないんだもの。口調は優しいし、声は高いし」
 確かにまだ変声期は来てない。
「せめて口調を変えないとね。まずは呼び方から変えたらどうかな?」
「呼び方?」
「呼び捨てしたことないでしょ。レッツトライ!」
「え」
 呼び捨て?
 真稀ちゃんを?
「……ま、ま、……」
「はいダメー」
「ま、き……」
「お?」
「……ちゃん」
「へたれー」
「き、急に呼び捨てなんて無理だよっ」
 十年近く呼んできたんだから。簡単に呼び捨てなんて。
「マサキ」
「う」
「マサキ、マサキ、マ・サ・キ」
「――意地悪だーっ!」
 ぼくは真稀ちゃんのふざけた口調に耐えかねて、大声で叫んだ。
「悔しかったら特訓特訓♪」
 勝てそうにない。
「ま……き」
「ぎこちない。2点」
「ま、き」
「硬いなあ。4点」
「ああもう、マキッ!」
「ヤケになりすぎ。マイナス10点」
「うう……許してよ、真稀ちゃん……」
「泣き言言わない。はいもう一回」



 結局特訓は、家に帰るまで続いた。
 一応少しは呼べるようになったけど、強要されてる時点で少しもかっこよくない。
 うう、いつかリベンジしてやる。
 背も追い越して、成績も上回って、絶対目に物見せてやる!
 待ってろ、真稀ちゃん!



 来年はもっと凝ったお返しをしようかなあ……。





      ※   ※   ※





 ピュアというか、未熟というか。
 こんな超健全話もアリだと思います。
 ほのぼのすぎて、キャラクターは完全に私の趣味です。
 ホワイトデーのお返しに、どうぞご賞味あれ。



 かおるさとーでした。

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*** COMMENT ***

ホワイトデー

「というわけで、お返しひとつ、くださいな♪」

↑ぎゃああっ、これにfateはノックアウト~
こういう素直な女の子ってめっちゃ可愛いっ
由来を尋ねてくる辺りからのすべての効果を知り尽くしているかのような大人な感じが同い年でも女の子の方が‘大人’なんだよな~
いや、真稀ちゃんに翻弄される主人公が良かった。

しかし、手作りチョコとか手作りクッキーとか、このお母さんとか!
なんか、もう超! 素敵!
この世界、本当に良いですっ

こんな風だと、流行に乗せられただけの行事も楽しくなるな~(^^)

fateさんへ

コメントありがとうございます。

普段、高校生ばかり書いている私なので、ちょっと年齢層を下げてみました。
本当は小学生にするつもりだったんですけど、設定上手控えてしまいました。この会話は私が思い描く小学生には似合わない……ということで。
ちょっとコメディ色強めに書きましたが、おもしろいやり取りを書くのは苦手です……すべってないかと不安になります。みなさんあえてつっこまずにスルーしてくださっているんじゃないかと思っていますが。ありがたいことです。
シリアスだとさらさら書けるんですけどね。

お菓子とか食べ物が大好きなので、ついついお話の中にも出してしまうんですけど、おいしそうだと思ってもらえるよう、そこもがんばりたいと思います。

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