砂糖を焦がせば薫る日々

サイト更新と読み物を少々

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『ソシャゲライタークオリアちゃん-恋とシナリオと報酬を-』の感想

久しぶりにライトノベルを読みました。

いや、今でもたまに読んではいるのですけど。
私が読むライトノベルは、どれも作家買い・シリーズ買いしたものばかりで、最近の作品は全然読んでいません。
あ、別にそれは昔の方がよかったというわけではなくて、新しいものに手を出すことに臆病なだけです。
もちろん過去の名作に触れて育ってきた感性がある以上、昔のものを特別視してしまうところはありますが、読まずに批判するのは私の本意ではまったくないですし、最近の作品でも興味のあるタイトルはいくつかあるので(まほいくとかグリムガルとか……って言うほど最近でもないかな)、機会があればまたいろいろライトノベルに手を出してみたい気持ちはあります。
とはいえ、それはいずれの話であって、現時点では全然読んでいません。

ええと、要するに、久しぶりに新作のライトノベルを読みました。
『ソシャゲライター クオリアちゃん-恋とシナリオと報酬を-』です。

ゲームシナリオライターの下村健さんの初めての小説ということで、発売前から楽しみにしてました。
下村さんがシナリオを手掛けたソーシャルゲームは、このブログでも何度か言及している『チェインクロニクル』以外にもいろいろありまして、私はチェンクロ以前から下村さんのファンでしたから、これも一種の作家買いといえるのかもしれませんが、やっぱりゲームシナリオと小説は全然違うものなので、下村さんの「小説」が読めるということにすごく期待していました。
そういうわけで以下感想です。








※ネタバレ注意。一応改行しておきます。





おもしろかったです。
帯やらサイトの宣伝文句では「業界あるある満載!?」「シナリオライター成り上がり成功譚」というような文が並んでいて、感想やレビューでも「暴露本」という扱いが大きかったように思います。
それはたしかにその通りで、私も読んだとき「え、そんなの書いちゃって大丈夫なの……?」と思わず心配になってしまうような(正直ちょっと引いてしまった)話が満載だったのですが、でもそれはたぶんこのお話の一部分、一側面でしかありません。
業界の内情を暴露するだけなら小説仕立てにする必要はありませんし、ノンフィクションとして世に出した方がいいはずですから、そこは主題じゃないのです。
あとがきに書いてあったように、ソーシャルゲームを作るにあたってのハウツー本を出したい、というのが率直な動機なのでしょう。
しかしそこはシナリオライターですから、ただのハウツー本ではなく、楽しく読めるハウツー本を書きたい→シナリオライターだから物語も書きたい→小説仕立てのハウツー本を書こう→クオリアちゃん書くよ! という、ちょっとひねった経過をたどって作られた物語が、本作というわけです。
お話の流れ自体はお約束も踏まえていて非常に王道です。主人公が、想い人の後を追いかけて、新しい世界に飛び込んでいくお話。その新しい世界が、今作ではソーシャルゲーム業界となっております。
とはいえ作中で触れられている部分はシナリオライティングがメインで、ソーシャルゲームの細かい仕組みにまで触れられているわけではありません。そこまで踏み込むにはどう考えてもページ数が足りないので、続きが出たらもっといろいろな部分を見せてくれるのかもしれません。

まあ、それはともかく、シナリオの話です。
ゲームシナリオというものがどのような流れで生まれ、ゲームに組み込まれていくのか。それを章ごとに慣習やメリット、問題点を挙げてわかりやすく説明していくので、ハウツー本として非常にわかりやすいです。ただ、読みながら「本当にこんなんで大丈夫なの!?」と困惑するくらいギリギリというかいっぱいいっぱいというか、かなりヤバい業界である描写がインパクト絶大で、これだけですごくおもしろいです。
そういう裏話のインパクトが強すぎて、肝心のストーリーがちょっと印象薄くなっているような気もします。話の流れは、重ねて言いますがすごく王道で、私は好きなんですけどね。新しい業界に入って、いろいろなことを吸収して、成長しながらも挫折を経験して、周りの助けを得て乗り越えていく。そういうストーリーです。

ただ、ひとつ気になったのが、アンバランスな点。
現実の職業を題材にしたお話は、やっぱり現実にあるものということで、私たちと同じ世界に根差したもの、つまりは地に足の着いた話の展開や設定になることが多いのですが、クオリアちゃんは地に足が着いている部分と着いてない部分が混在していて、すごくアンバランスな印象を受けます。
どういうことかといいますと、このお話には超能力・異能力が出てくるのですね。
いや、比喩とかじゃなくて、ホントに。
主人公の想い人、クララさんは4姉弟で、長女・クララ、長男・オーガ、次男・リーヤ、次女・アイナの4人がコウを取り巻いてドタバタを繰り広げるのですが、4姉弟は全員異能力持ちなのです。
リーヤくんとアイナちゃんはまだ現実的に理屈をつけて説明できないこともないですが、クララさんとオーガさんは完全にSFとファンタジーに属する能力なので、ここで私たちの現実とは乖離します。それ自体はライトノベルでよくあることなのですけど、扱う問題が「ソーシャルゲームのシナリオライティング」という現実的なものなので、明らかに違和感があるわけです。
でもその違和感は作中でもツッコミをされまくっているので、狙って描かれた違和感だと考えられます。
おそらく、今後の話につながる重要な伏線や設定として、この異能力設定は盛り込まれたのではないでしょうか。
続編があるかどうかは売れ行き次第なわけですが、続きが出た場合に必要になってくるのでしょう。おそらくは「なぜ」そんな能力を得たのかという理由とあわせて。

まあ、ライトノベルらしさを求めてぶっ飛んだ設定を盛り込んだ、と単純に考えることもできますが。
著者の下村さんは結構設定やらなにやらにこだわる方なので、無意味に設定を盛り込むことはしないんじゃないかなあと思います。
そういえば、この川口4姉弟は、下村さんが指揮を執るシナリオライター集団『チーム・クオリア』のイメージキャラクターでもあるのですが、それが公開されたのってこの『クオリアちゃん』発表よりはるかに前なのですよね。
もしかしたらお話の案はすでにそのころから出来上がっていたのでは……というわけで、ますます無意味な設定とは思えません。

アンバランスといえば、このお話は普通のフィクションよりもかなり密接に現実とつながっています。
作中で実在のゲーム・漫画・アニメ・映画・小説のタイトルがこれでもかと出てくるのです。
普通伏字とか一字違いのパロったタイトルでお茶を濁すじゃないですか。そういうの一切ありません。当たり前のように『デレマス』とか『モンスト』とか出てきます。
たぶんこのお話を現実と地続きにしたいという意図があったのでしょう。そうすることで「このお話のシナリオライターの現状が決して誇張やハッタリではない」ということを表したかったのではないかと。それはちょっと好意的にとらえすぎでしょうか。
もちろん「好きな作品のタイトルをそのまま使いたかった」というのも理由の一つにあるかもしれません。思い入れのあるタイトルをどうしても作中に出したかったのかもしれませんね。残念ながら、私の知らないタイトルもありました。でも、これをきっかけに知らない作品に手を出すという人もいるかもしれません。新本格を読んで古典ミステリを漁りだすような感じで。
あと、鎌倉が舞台なので、鎌倉の名所とかもいろいろ出てきます。他にも主人公の住んでいる場所が結構細かく設定されていたり。(最寄り駅の下高井戸まで徒歩数分のアパートとか)

このアンバランスさは、人によっては受け付けない場合もあると思います。結構読み手を選ぶかもしれません。
ついでに言うならやっぱり男性向けかなーと思います。作中で主人公が担当する作品が基本的に美少女ゲーム、いわゆるギャルゲーなので、どうしても男性読者を想定しているように見えてしまうかも。(実際は、下村さんがラブコメが好きだからというのが大きな理由で、男性向け女性向けというのは特に考えてはいないと思います。そんなのどちらの方にも読んでもらいたいに決まっているわけで)
それでもいろいろな試みがなされていて、私はこのお話、おもしろいと思いました。元々下村さんのシナリオが好きというのを差し引いても、好きだと思います。まっすぐなところが好きなのかもしれません。そのくせ設定が二重構造ラブコメになっていたりして凝っているところが好きなのかもしれません。
できれば続きが出てほしい作品です。もっと売れてー。



以下は適当に書き連ねます。

作中で出てくる『初恋メモリーズ』は、下村さんが昔手がけていた『えんむす』というゲームを元にしていると思われます。
えーと、私が入院中に暇つぶしでプレイしていた、ガラケー時代のソーシャルゲームですね。
なんでそれがわかるかといいますと、キャラクターデザインが同じむらたたいちさんで、キャラの配置や設定も非常に似ているからです。
たぶんプレイしたことがある人なら、すぐにピンと来るんじゃないかと思います。(私だ)
入院中は本当に暇な時間が多かったので、携帯を使ってちまちま小説を書いたりゲームをしたりツイッターを見たりしていました。
その中でたまたま遊んだゲームのシナリオライターが下村さんで、それからずっと追いかけさせてもらっています。
その間に下村さんはどんどん有名になっていったので、ちょっとびびりながら、今でもチェンクロとか楽しませてもらっています。
ガラケー時代には他にも『ナイプリ』とか『Re:まぜ』といった、もはや存在の形跡すらろくに残っていないゲームも遊ばせてもらったのですけど、下村さんのシナリオは当時から一貫してまっすぐなものが多かったです。
そのあたりが私の心に刺さったのかもしれませんね。
あと、幼馴染みをちょっとひいきにするあたり。下村さんも幼馴染み学派か……?(そこか)

んー、だんだんクオリアちゃんの感想じゃなくて、下村さんへの想いを連ねる感じになってきましたね。
でも、そこは意外と大事なところで、過去作に触れている人がクオリアちゃんを読むと、「お、これは」と思うようなポイントが多いのです。
岸部露伴じゃないですけど、想像だけでお話を生み出すわけではなく、何かを体験して得たインプットを大事にしてアウトプットを行うのが下村さんの作品作りの特徴です。
下村さんはツイッターでも過去にプレイして心に刺さった作品のタイトルを挙げることが多いのですけど、開高健や横山秀夫のような骨太の小説から、SF系のアニメ、美少女ゲームまで、本当に様々な作品を挙げるので(そこはクオリアちゃんの主人公・コウに重なる部分ですね)、そういった過去の名作に触発されていろいろなシナリオを生み出してきたのでしょう。そうしてシナリオライターとして携わってきた作品が経験として積み重なっていって、また新しいものを生み出す。そういうサイクルができているように感じられます。
そういうわけで、どうしてこういう書き方がされているのだろうとか、こういう展開になるのだろうとか思ったら、それは大体下村さんがかつて体験したことや触れてきた作品、手がけてきた仕事がベースになっているものだと考えてもいいかもしれません。
そういう積み重なりが見える点でも、下村さんの作品を追いかけてきてよかったと思う小説でした。



やたら長くなりましたが、『ソシャゲライタークオリアちゃん-恋とシナリオと報酬を-』の感想でした。
思ったことをそのまま書き並べているだけなので、雑然として読みにくいかもしれませんが、結構想いは込められたと思います。
ええと、改めて。
下村さん。小説発売おめでとうございます!



かおるさとーでした。
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