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砂糖を焦がせば薫る日々

サイト更新と読み物を少々

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夏休みと牛乳の話


 また大きくなった。
 宮園冴子にとって、それは非常に悩ましい問題だった。
 彼女の存在感は、クラスでも群を抜いていた。
 その大きさは平均サイズを20は上回っていて、感嘆より奇異の目で見られることもしばしばだった。
 冴子はいつも思っていた。
 どうしてこんなに育ってしまったのだろう。
 こんなに成長しても、男子から変な目で見られるばかりで、人生において何の役にも立たないのに。
「『どうして私はこんなに大きく育ってしまったのだろう』宮園冴子は人知れず苦悩を――」
「歌子、変なナレーションやめて」
 私は隣を歩くクラスメイトに思わず突っ込んでいた。
 君川歌子は口上を中断させると、私の顔を見上げた。彼女の体は小学生と見まがうほど小さい。
「君の悩みを物語風にそれっぽくそらんじてみただけなんだが」
「言い方に悪意があるわ!」
「そうか? 実際、君の体は平均より20は上だろう」
「身長がね! あんたの言い方だと他の人が勘違いするでしょ」
 そもそも私は背の大きさに悩んでいるわけじゃない。
 たしかに身長は180を超えているけど、服のサイズが合わなくて困ることも多いけど、それは別に悩んでいない。
 悩んでいるのは、
「体の大きさのわりに出るべきところが出てないというだけのことだろう。なんとも贅沢な悩みだな」
「いや、悩みというほどのことではないんだけどね」
 どんなに夏の日差しが強くても、部活動はあるし学校は開いている。
 練習が終わって家に帰る途中、たまたま図書館帰りの歌子と一緒になったので、冗談交じりに愚痴をこぼしただけだ。体からじわりじわりとにじみ出てくる汗が、下着や制服を肌に貼りつかせて気持ち悪い。シャワーは浴びたはずなのに、外に出るとまるで意味がなかったかのようにどろどろになってしまうのだ。そんな極悪な暑さの中では、愚痴のひとつやふたつ、ついこぼしてしまっても仕方がないと思う。
 視線を下げて自分の体を見下ろすと、隣の友人に比べて手足の長さが際立つ。しかし胸元や臀部の肉付きは、なんとも慎ましいというか、控えめなものだった。
 縦には十分育ったから、今度はパーツの方に栄養が行きわたってほしい。
 歌子はわざとらしく肩をすくめた。
「贅沢な話だ。胸はなくとも背が高い分君の方が私より恵まれているじゃないか」
 歌子は背も低ければ胸もない。小学生サイズなのは身長だけではなかった。いや、最近の小学生の方がまだ発育はいいかもしれない。
 しかし、それが君川歌子の欠点にはなりえないことを、私を含めて他の者はよく知っている。
「歌子は今のままが一番歌子らしくて合ってると思うよ。かわいいもん」
「その“かわいい”はきちんと人間扱いした上でのかわいいなのか?」
 歌子の物言いに私は苦笑した。まあたしかに歌子はマスコット的な扱いをされやすい容姿だ。
 それでも顔立ちは整っているし、間違いなくこの子は美人だと私は断言できる。全体のバランスが幼すぎるだけだ。本人は意に介していないけど、なんだかんだで男子にもてるし。
 私はあいにく異性に縁がなかった。顔は悪くないと思うが、この身長ではなかなか男も寄り付かないようだ。まあ、こっちも今のところ興味はない。気になる相手もいない。
 ただそれでも、自分のスタイルは気になるものなのだ。
 歌子は自分の容姿に不満を持ってはいないようで、いつも堂々としている。とてもかっこいい。クラスで君川歌子のことを嫌いな人間は一人もいないだろう。もちろん私も大好きだ。こんな馬鹿話をしながら一緒に帰るのも、とても楽しい。
 そういえば、どうしてこんな話になったんだろう。
「あいつの話をしていたからだろう」
 ああ、そうだった。
 同じクラスメイトの彼女。クラスで一番発育がいい彼女は、歌子と仲がいい。最近歌子はあの子にやたらご執心なのだ。少し妬ける。
「なんだっけ、また大きくなったんだっけ」
「恐ろしいことだ。元々大きかったものがさらに成長するのだから、あの膨らみこそまさに生命の神秘だ。自由研究のテーマにしたい」
「そんなもの提出したら絶対怒られるからやめなさい」
「それはあいつにか? 教師にか?」
「両方」
 歌子なら怒られても平然としているかもしれない。その姿が容易に想像できて、私は思わず笑った。
「歌子は怖いもの知らずなところがあるもんなあ」
「む、私だって友人が嫌がるような真似は控えるぞ」
「注意するまで気づけなさそう、あんたのことだから」
 歌子は不満げに口を尖らせた。ほんとかわいいな、この子は。
 駅前のロータリーに沿って歩道を歩いていると、歌子は唐突に尋ねてきた。
「そういえば冴子、君は普段牛乳をどれくらい飲んでいる?」
 質問の中身も唐突だった。
「え、……朝、コップ1杯かな」
 我が家の朝食はパンなので、冷たい牛乳が合う。
「毎日?」
「一応」
「だから背が伸びたんだな」
「いや、たぶんこれ遺伝」
 両親ともに背が高いので、受け継いだのだと思う。聞けば、母も私と同じバスケ部に入っていたとか。ベンチだったらしいけど。
「急に何よ」
「思い出したんだ。あいつは乳製品をよく摂取していた。大好物らしい。甘いものも好きだと言っていた」
「たとえば?」
「チーズケーキとか、カフェオレとか」
 カフェオレって乳製品か? たしかにミルクは入っているけど。カフェインの摂り過ぎが成長を妨げるという話を聞いたことがあるが、あれは都市伝説だったかもしれない。
「何が言いたいのよ」
「私はあまり牛乳を飲まない」
「それで?」
「牛乳が成長を促進させる大きな要因かもしれないことに思い至った。私と君たちとの差は牛乳かもしれない」
 成績優秀なくせに、ものすごくアホなことを言い始めた。
 そりゃ飲んだ方が成長はするだろうけど、それだと説明できないことがある。
「私は毎日飲んでるのに一向に胸が大きくならないんですけど、そのあたりについての考えをお聞かせくださいミス・ウタコ」
「『Mr.』や『Ms.』は基本的にファーストネームにはつかないぞ」
「そうだっけ? で、どうなのよそこのところ」
 歌子は揺るがなかった。
「1日2杯飲んでみたら胸も大きくなるかもしれないぞ」
「んなわけあるか」
「物は試しだ。ちょっと牛乳買ってくる」
 そう言うと、歌子はロータリーに隣接している目の前のコンビニへと足を向けた。
「とりあえず1リットルでどうだろう」
 1リットルて。
「どうって、何が」
「さすがに電車の中では飲めないからな。ここで飲もうと思う」
「……1リットルを!?」
 何を言い出すんだこの子は。
「馬鹿な真似はやめなさいって。おなか壊すよ」
「今まであまり飲んでこなかったのだから、それくらい飲まないと取り戻せないだろう」
「いやいやいや、その理屈はおかしいから」
「ならはんぶんこにしよう。500mlなら、いけそうじゃないか」
 勝手に私を巻き込むな。
「だいたいあんた今の自分の体に不満はないんでしょ? 無理して牛乳飲む必要がどこにあるのよ」
「不満はないが、自分の体じゃなければできない実験もある。科学にリスクは付き物だ」
「そもそも全然科学的じゃないことに気付け!」
 私もあんたの実験体にはなりたくないし。
「あーもー、わかった。わかったから、とりあえず普通のパック牛乳から始めなさい。200mlのやつ。小学校の時、給食で出てきたでしょ」
「小学生が飲む程度の量では実験にならないのでは……」
「泳ぎ方もろくに知らないやつが、いきなり太平洋に向かって遠泳始める方がおかしいのよ」
 この暑い中、私は何をやっているんだろう。
 とりあえず二人で、200mlの牛乳を買って飲んだ。
 照り付ける日差しのせいもあってか、外で飲む牛乳はいつも飲むそれよりもずっとおいしく感じられた。
 歌子は牛乳を気に入ったみたいで、今度から飲み物を買うときは候補に入れておくと言い出した。そのうち本気で1リットルを一気飲みするかもしれない。
 私には牛乳の効果はよくわからないけど……
「まあ、夏休みの自由研究にはいいんじゃない?」
 こういう馬鹿なことができるのも、夏休みの特権だと思う。
 私の言葉に歌子は肩をすくめた。
「君の胸に変化が生じたら、本格的に考えよう」
「いや、私を巻き込まないでよ……」
 私は歌子みたいに、怒られて平然とはしていられないのだから。
 それでも、まあ、夏休みだし。
 とりあえず、明日から牛乳を2杯飲むことにしよう。



          ※      ※      ※



ぎりぎり更新です。毎年恒例の「おっぱいの日」小ネタです。
急いで更新したので、あとから追記するかもです。
『キミカ』こと君川歌子と、新キャラのお話です。

以下、追記

えー、毎年8月1日は小ネタを載せているのですけど、今回は本当に急いで書き上げたので、きちんとお話になっているかどうか不安なのですが、そこはまあ小ネタということでご容赦ください。
上の方でも書きましたが、今回のお話に登場する君川歌子さんは、『はちがつついたち』『続・はちがつついたち』にも登場する女の子でして、相方の『私』から「キミカ」と呼ばれております。
なので、まずはそちら二つのお話を読んでからの方が、より理解が進むかと思います。
とはいえ内容はただのガールズトークなので、そんなに深い話でも何でもないのですが、まあつながりやキャラクター性などはつかめるかと思います。
いつも堂々としているキミカさんですが、たまにはうろたえたりもするんですよ?(『はちがつついたち』参照)

元々は主役ではなかったのですが、思った以上に書きやすく動かしやすいキャラクター性のおかげか、いつの間にかキミカさんを動かしながら小ネタを考えるようになりました。
おかげで男爵平野さんからもキミカシリーズと呼ばれるようになったり。
まあでもたしかに毎度毎度キミカさんが突飛な話題を振ることで話が進みますから、これはきっとキミカシリーズです。来年も書くかもね。

久しぶりの更新でしたが、さぼっていたわけではなく、いろいろ書いております。
もう少ししたらサイトの方もいろいろ更新できるかもしれません。
短編と、あと催眠術の話も。
7月8月は暑さだけじゃなく地域の行事も多いので時間を確保できないこともしばしばですが、がんばります。
それではそろそろこの辺で。
みなさんも冷たいカフェオレでもなんでもいいからとにかく冷たい飲み物を飲んで、熱中症にならないようにしてくださいね。



かおるさとーでした。
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