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砂糖を焦がせば薫る日々

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小ネタ・続はちがつついたち(作中の時間が8月1日とは言ってない)

『続・はちがつついたち』



「男子というのは」
 クーラーをガンガンに効かせたリビングで、まったりと冷たいミルクティーを飲んでいると、向かいのソファーに座った友人が口を開いた。
 彼女は同じ学校の同級生で、名前を君川歌子という。140cmあるかないかという低身長で、スタイルもそれに合わせるように幼児体型で、小学生かと見まがうような外見だけど、これでも高校生だ。私は彼女のことをキミカと呼んでいる。
 そのキミカが発した滑り出しの言葉には、なんだか既視感があった。ん、この場合は既視感でいいのか? 既聴感か? とにかく、どこかで聞いたことのあるような口上だった。
「やっぱり胸に弱いと思うんだ」
 続く言葉に私はがくっと崩れた。前に聞いた文言とは微妙に違った。
 キミカは私をじっと見つめている。この小さな友人はいつも真面目な顔と真面目な口調をセットにしながらどうでもいいことを口にする。
 私は気を取り直し、冗談めかした調子で返した。
「キミカくん、いったいなんだね急に」
「なんだその口調は。……ちょっとした四方山話さ」
 四方山話ねえ。
 前にも男子がどうのという話を、キミカとしたことがある。
 あのときはたしか、男子は美人に弱くてその中でもさらに胸の大きな美人に弱いんじゃないかというキミカの説を、私が実体験を反例に退けたんだっけ。私としてはあまり思い出したくない話だった。
 キミカは少しだけ神妙な顔つきになった。
「いや、君がしたくないなら別の話題にしよう。すまない」
「なんで謝るの」
「胸にコンプレックスを感じているのだろう。少しは気にするよ」
 何かしらのコンプレックスを抱いていると思われる人間に、面と向かってコンプレックスという言葉を直接投げかけるところがキミカらしい。この子はいつも言動がストレートだ。
 私は苦笑した。
「別にコンプレックスなんてないよ。病気ってわけじゃないんだし、健康な体にけちをつけるのは贅沢ってものだね」
 自分の胸元に視線を落とす。二つのふくらみが薄手のプリントTシャツを内側から押し上げている。標準より大きいだろうそれはそれなりに目を引くものの、肝心なときに役に立ってくれなくて、たしかに私の中ではそんなにうれしいものではなかった。
 でもそれは、好きな相手に振り向いてもらえないやるせなさを、これに押し付けているだけだ。胸の大小なんて、本当は全然関係ない。だから本当はコンプレックスなんてまったくと言っていいほど無い。自分の体を恨めしく思っても、何にもならないから。
「それよりキミカの方こそ、そういうコンプレックスみたいなものがあるんじゃないの? なんでそんなに胸にこだわるのよ」
 キミカは平然と答えた。
「持っていないからに決まっている」
 そんなに堂々と胸を張られても困る。私はキミカの薄い胸を呆れ交じりに見やった。それにしても、ホント何の起伏も無いな。
「持たざるものが持つものに尋ねるのはごく自然なことだと思うが……」
「でも、別にキミカは男子にモテたいわけじゃないんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ別に必要ないじゃん。胸のことを考えて、何か特になることでもあるの?」
 キミカは自身の身長や体型に不満があるわけではないらしい。思春期にはその手の愚痴をこぼす子はそれなりにいるけど、彼女は違った。むしろ今の自分に満足しているような風でさえある。だから、この話もきっと純粋に興味本位なのだろう。
「損得で考えるようなことではあるまい。言っただろう。単なる四方山話さ。友人と、楽しい時間を過ごすための、軽いおしゃべりだ」
「それで胸?」
 楽しいのかそれは。
「楽しくないならやっぱりやめようか」
「……別にいいけどさ」
 ここで話題を変えたら、やっぱりコンプレックスなんじゃないかと誤解を招いてしまう気がして、私は不承不承ながらうなずいた。いや、ホントに気にしてないんだよ。ホントに。
「というか、別に異性にばかり有効なものでもないだろう、胸は」
 キミカがよくわからないことを言った。
「……どういう意味?」
「同性相手にも効くんじゃないか? 大きな胸は見たいし触りたいぞ」
 少し引いた。
 心理的な意味ではなく、物理的に。心持ち、前かがみになっていた上体を背もたれにあずけるように後ろに引いた。
 キミカが眉根を寄せる。
「なんだ、その反応は」
「危険を感じて」
「何の危険だ」
「貞操の」
「私は女だぞ」
「あんた前に私の胸触ったじゃん。ていうか揉みしだいたじゃん。後ろから」
「あれはよかった。いい感触だった」
「しみじみと言うな! あんたのあれがきっかけで、他の子にも同じことされたんだからね!」
「なに? まさか男子にも」
「されてたまるかあっっ!!」
 ちがう、漫才がしたいんじゃない。落ち着け。
 私はグラスを手に取ると、まだ半分ほど残っているミルクティーを一気に飲み干した。心地よい冷たさが喉を通り、体に染み込んでいく。クーラーは効いているけど、よく冷えた飲み物の冷たさにはかなわない。
 一息ついてから、再びキミカに目を向ける。
「あんたのセクハラはともかく、同性相手にも有効っていうのはピンと来ないんだけど」
 首を傾げられた。ストローでちゅうううっとミルクティーを吸い上げてから、キミカは反論した。
「何を言っているんだ。他の女子にも触られたんだろう? つまり、他の女子も君の胸に興味があったということじゃないか」
「……」
 なにそれこわい。
「まあ、性的な欲求は別としてだ、触ってみたいというのは、おそらく男女関係なくあると思うぞ」
「……ホントに?」
 私には全然ないんですけど。
 すると、キミカは不意に微笑を浮かべた。なんとなく楽しそうに。
「君が周りに好かれているのも、理由の一つだろうな」
「へ?」
「君は人がいいから、多少の悪ふざけくらいなら許してもらえるんじゃないかと、みんなそう考えたんじゃないか。これが学校一の不良や伝説のスケ番相手だったらどうなる? 自殺行為もはなはだしいぞ」
 いや、そもそもうちの学校にそんなのいないし。なんだよ伝説のスケ番って。
 これって褒められているのだろうか。
 人がいいって、褒め言葉か?
「つまり『こいつなら一回くらいおっぱい揉ませてくれるんじゃないかなあ』って思われてるってこと?」
「ひねくれた受け取り方をするな。褒めてるんだぞ」
「もっと違う褒め方はなかったの……」
 全然うれしくない。そりゃ性格や性質を褒められてうれしくないことはないけど、それで求められるのが胸って。納得行かない。
「私の価値って胸だけなの?」
「そんなことは言ってない。なんだ、やっぱりコンプレックスがあるんじゃないか」
「ないってば」
 なんだかキミカのペースに翻弄されている。さっきクールダウンしたばかりなのに。
 言われっぱなしは癪に障るので、逆に問い返した。
「じゃあさ、キミカにはコンプレックスはないの?」
 小さな友人は目を丸くした。
「私?」
「そう」
 押し黙った。
 難しい顔でうつむくキミカに、私は失敗したかなと歯噛みした。自分が訊かれたからって、相手に訊いていいかどうかはまた別だ。コンプレックスは他人を通して生まれるものだから、他人の目を気にしないキミカには無縁のものだと思っていた。
 でもそんなのは私の思い込みで、キミカは変わっているけど私と同じ高校生なのだから、そういうものがあっても不思議じゃないのだ。
 男っぽい口調や風変わりな言動であっても、キミカは女の子なのだ。とってもかわいらしい、私の友人なのだ。
 じっとうなだれて動かない友人に、私は思わず立ち上がり、声をかけた。
「あ、あのさ、言いたくないなら別に」
「性欲が無いことかな」
 キミカが小さくつぶやいた。
「…………え?」
 今、なんて言った?
 顔を上げると、友人はあごに手を当ててしみじみと答えた。
「どうも、性欲というものをあまり持てない。好奇の心はあるが、どうでもいいようでもあるし。それが恋愛というものと直結しているのかは知らないが、もしかして私が異性に興味を持てないのは、性欲が無いせいではないかとも思ったりする。いや、まったく無いわけでもないみたいなんだが、なんだろうな、他の女子と話をしていても、何かが違うような気がするんだ。かっこいいとかかわいいとか、そういう感覚はあるんだが、欲する気持ちとは別な気がするし。そのせいで、どうもみんなと話が合わない。それがコンプレックスといえばそうなのかもしれないな」
 そう言うキミカの表情に、憂いの色は見えなかった。深刻な様子は微塵も感じられない。
「あの」
「ん?」
「それ、悩み?」
「たぶん」
「たぶんて」
「いや、コンプレックスは無いのかと訊かれたから、一所懸命考えたんだぞ。自分の中をいろいろ探して、まとめ上げて。しかし悩みといえばそうかもしれないが、普段は特に意識したことは無いから、微妙なところだ」
 脱力した。先ほどうつむいて難しい顔をしていたのは、考えを整理していただけらしい。
 がっくりうなだれたのは私の方だった。そうだ。これがキミカだ。基本的に自分が他人にどう見られているのかなんて気にしないのだ。だから真顔で性欲がどうのなんて言える。
 キミカが首を傾げた。
「どうした?」
「あんたが君川歌子だっていうことを忘れていた自分に呆れてるだけだから心配しないで」
「私は私だが……」
 戸惑いの声を漏らす友人に、私はまたため息をつく。
「キミカのその悩みはさあ、体と同じように単に成長が遅いだけじゃないの? そのうちいろいろわかると思うよ」
「そうかな」
「そうだよ。それに要は心というか内面というか、目に見えないものの話じゃん。見えないものを気にしてもしょうがないって」
 できるだけ明るい調子で言うと、キミカは微笑した。
「フォローか?」
「……いちおう」
 フォローになっているかどうかはわからないけど。
「そういうところが“人がいい”というんだ」
「う」
「そして私は、君のそういうところを気に入っている」
 顔が熱くなった。
 そういうことを、よく真顔で言えるな。
 かっこいいな。
 ちくしょう、照れるじゃないか。
 真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、私は横を向いた。
「照れるな」
「照れてない」
「そんなに隙だらけだとこっちも困るぞ」
「……隙?」
 一瞬言葉の意味を掴みかねた。
 顔を戻すと、キミカの手が私の方に伸びてきた。
 ブロック。
「……」
「……」
 お互い沈黙した。
 胸元に伸びてきた小さな右手を、かろうじて左手で防いだ。
「なにこの手は」
「隙だらけだったものでつい」
「何がついだ。……左手を伸ばすな」
「むう、パリィなんてどこで覚えた。そんな姑息な手」
「姑息なのはあんただ」
「姑息とは一時しのぎという意味で、卑怯という意味ではないぞ」
「どっちでもいいわ!」
 キミカの手を空中で叩き落としながら、私は声を上げる。
 まったく、こんな暑い夏の昼下がりに、何やってるんだか。
 まあ、こんな他愛の無い友人とのじゃれあいも、嫌いではないんだけど。
「ぬう、ブロックが固い。腕を上げたな」
「うれしくないわよセクハラ魔女め」
「魔女とはなかなかかわいらしい呼び名だな。次からはそう呼んでくれ」
「気に入るな!」
 今年の夏休みも、なんでもない日々とともに過ぎ去っていくみたいだった。



      ※      ※      ※



というわけで、毎年恒例のおっぱいの日小ネタです。
前に書いた小ネタの続き物です。
作中に登場するキミカという女の子は、書いた当時は結構適当に考えたキャラクターだったのですが、適当に考えた方が好きなものが反映されるのか、意外と気に入っています。
前の話ではあまり性格や性質が出てこなかったのですが、実はこんな感じのキャラクターでした。何気にアクティブです。
以下に前の話のリンクも貼っておきますので、興味がありましたらぜひ。

『はちがつついたち』

暑い日が続きますが、みなさん水分はこまめに摂ってくださいね。ミルクティーでもカフェオレでもなんでもいいですから。私はアイスコーヒーにします。
かおるさとーでした。
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*** COMMENT ***

2人のやり取りが相変わらず可愛らしくてほんわか読ませていただきましたw
そして「私」さんのお名前が出ていない辺りが気になったりしてしまうのです。

Re: タイトルなし

こんにちは。コメントありがとうございます。
こちらでははじめましてですね。向こうではいつもお世話になっております。

かわいらしいと思っていただけて、すごくうれしいです。小ネタは勢いとノリで書いている部分が大きいので、ストレートにかわいく感じてもらえるのが一番だと思っています。
名前が出ないのは、私がネームレス小説のような文章に憧れを抱いているせいです。小ネタなどでは、よく人称や名前による遊びをします(ネームレス小説だけではなく、二人称小説も書いたり)。
ええと、要するに、北村薫さんの文章が好きなんですね。

ちなみに名前は特に決めていません。

こんにちは

はじめまして!あるブログを拝見していたら、このブログに出会いました。私もブログを開設しています。「鬼藤千春の小説」で検索できます。一度訪問してみて下さい。

ふ…ふふふ。お久です♪

>ちがう、漫才がしたいんじゃない。落ち着け

↑これ、うひゃああ、分かる分かる! と、超! 笑いました。
いやぁ、相変わらずお見事! な世界で、拝読している間中、きっと今、fateは傍から見たらアブナイ生き物になっておるであろうことを予感しておった。
だって、超! ニヤけて読みふけっておりましたもんでさ~

こういう可愛らしい世界の切り取り方はかおるさとーさんにしか出来ないと思う。
けど、時々真似したくなって、こっそり練習してみている。
わはは(^^;

キミカさんってものすごく親近感抱きます。
そして、fateの場合、男子なんて可愛らしい表現はせん。ヤロー共はなぁ…、となるが、ほんと、胸に弱いんじゃなかろうか? だって、「お母さん」の象徴だからさ。
そして、女の子もきっと胸に甘えたい欲求はあるんだよ。
ヘンな意味じゃなくっても。
哺乳類ってそもそも、「乳」類だからな~♪

キミカさんってきっと恐ろしく純粋で素直で、一番、マトモな人間なんだろうな、と感じます。
彼女が理想。
生きやすそうだもんな(^^)

おひさしぶりです

fateさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

お褒めいただき心の中で喜びの踊りを舞っております。小ネタなのでコメディというかギャグというか、軽い雰囲気で書きました。キミカさんが動かしやすいので、あまり悩まずに書けます。ありがたい子です。

男子・女子という呼び方は、この年代の子にはぴったりですが、歳を取るとだんだん使えなくなっていくなあ……といやな実感があります。
まあみなさん男女の垣根を越えて、胸が好きだと思います。私も好きです。というか、胸に限らず全身のスタイルが整った綺麗な体の人って、それだけで見惚れてしまいます。私も節制してがんばらねば。

キミカさんはおっしゃるとおり、すごく素直な子です。いやならいやとはっきり言うタイプ。物怖じしない子ですね。かといって好き放題するわけではなく、それなりに気遣いもできるので、周りからも好かれております。
が、仲良くなって遠慮がなくなるとセクハラも厭わないので、“私”は苦労しています。仲良いんですけどね。
キミカさんみたいに生きられたら楽しいだろうなあとは思います。できないことを小説の登場人物に託しているのかもしれません。

こんな小ネタにも反応していただいて、本当にありがとうございます。
私もfateさんみたいにもっとシリアスなお話を書ければいいのですが、なかなか筆が進まず、苦戦しています。またブログに遊びに行きますね。

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