砂糖を焦がせば薫る日々

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パルヴァライザー・イン・クリスマス

 浮遊感とともに、私の意識は暗黒の世界に飛ばされる。
 周囲が一瞬にして闇へと変わり、光はどこにも見えない。
 完全な闇ではなく、わずかばかり光らしきものが彼方に見えることもあるけど、基本的にここはどこまでも暗く、寂しい場所だ。
 そんな空間で、足場すらない場所で、私の意識はゆらゆらと漂う。
 いけない。しっかり意識を保たないと、仮想体を固定できない。そうなるとまた1からやり直しとなってしまう。
 私は目の前の景色をじっと見つめる。
 視線の先には、何もない。本当に何もない。ただただひたすらに深遠なる闇が広がっていて、空間全体を把握することなど到底かなわない。果てというものがまったく推し量れず、私はいつもこの――光なき世界で「光景」などという言葉が果たして妥当なのか判断に迷うけど――光景には不安を覚える。
 誰だって本能的に闇を恐れる。それでも立っていられるのは、みんな周りの世界をある程度把握できるからだ。小さな惑星の小さな国の、街中のマンションの一室に住んでいる普段の風景を日常の場所として確保するような、そんなごくごく普通の生活を送っている身の上ならば、夜が訪れても怖くはないけれど、それはそういう環境下の話であって、こんなにも闇が支配する場所では、きっと誰もが不安と恐怖を抱き、世界の不確かさに絶望せざるをえないのかもしれない。
 私だって、ほとんど絶望しかかっている。
 それでも今のところ踏ん張っていられるのは、この場所にいる私の肉体が仮想体、つまり仮の姿だから。
 水嶋亜子という人格の構成要素をデータ化して、クレイブ時間短縮装置で光の650倍の速さで座標転送することで、仮の肉体を宇宙空間に数秒間だけ現出させるのだ。あくまで仮の肉体であって、私の本体は太陽系第三惑星地球の日本国某所にしっかり存在しているので、まあそういうわけで私はなんとか宇宙の広さに絶望せずにすんでいる。
 こういったテクノロジーは、なぜか一切公表されていない。たぶん無用な混乱を避けるためなんだろうけど、まあそれは仕方ないことなのだろう。
 一方で国は、私みたいな女子高生を半強制的に使役していたりするんだけど。
 視線の先で、何かがゆらめいた。
 光源がまったく存在しない世界では、まず視覚は頼らない。人間の五感とはあくまで自分と直に接しているものに対して有効な認識手段だ。宇宙空間はあまりに広く、基本的に五感はほとんど意味を成さない。
 だから第六感を使う。
 ひらたく言えば超能力である。正確には仮想体を通して空間認識能力と特異概念現出能力を負荷を無視して上昇させることで、一時的に人の身ではありえない感覚と能力を作り出す。
 それができたから、私はこの仕事をすることになったのだ。
 目の前の空間が大きくゆがむのがわかった。
 私の持つ感覚では、相手の大きさをある程度しか測ることができない。しかしそれで十分だったりする。相手は基本的に巨大隕石だ。それが地球に向かってこないように軌道をずらす、あるいは隕石そのものを消滅させるのが私の仕事である。
 当たり前だけど、結構しんどい。
 相手は、ときには地球の10倍以上の大きさだったりする。これまでの最高記録は長直径7万3千キロメートルに及ぶジャガイモ形の隕石だった。あれを破壊するのは骨が折れた。何しろそれだけの大きさになると、そこにあるだけで周りへの影響が計り知れない。大雑把に壊すわけにもいかず、仕方なく時間ぎりぎりまでひたすら破片を消滅させた。
 今回はどうだろう。
 第六感が、相手の大きさをある程度測定にかかる。直径3000キロメートル。隕鉄を多分に含んでいると思われ、完全消滅が望ましい。
 私は判断をナノセカンド単位で下すと、目標をイメージの中でミキサーに放り込んだ。このイメージが私の能力だ。簡単に言うと、イメージを集中的かつ瞬間的に明確化することで、対象をそのとおりにしてしまう能力である。この場合は破壊や消滅のイメージで相手を捉えることになる。分解のイメージはミキサーで、消滅のイメージは飲料と咀嚼である。
 つまり、今からあの隕石をミキサーにかけて粉末状にして、飲み込む。
 巨大ミキサーを宇宙空間に思い描き、それに放り込む。
 放り込んだらスイッチを入れて、粉々に破壊する。
 それをまとめて飲み干すようなイメージを投影すると、相手はこの空間から完全消滅する。
 すべての作業が終わるまで、1ミリセカンドもかからない。しかしもちろん油断は禁物。隕石が一つとは限らないのだ。
 私は意識を闇の中で保ち続け、その作業をブラックアウトの瞬間まで延々とこなした。
 せっかくのクリスマスなのに、と文句を言う暇もないほどに過ぎ行く、瞬きの世界で。



「おつかれさまでした」
 運転手の明瞭な声が私の耳に届く。
 私はええ、とかうん、としか返せない。仕事が終わってしばらくの間は、感情が希薄化する。擬似的にではあるけど、宇宙の真ん中に放り出されたら、大抵の者はこうなるのだそうだ。
 それは運転手の方もわかっていて、それ以上は何も言ってこない。
 しばらく無言の時間が続く。
 後部座席の窓から見える街の景色は、きらびやかなイルミネーションに包まれていて、私がさっきまでいた場所とは似ても似つかない。
 上空では夜の闇が茫洋と広がっている。
 その彼方にはきっと私の“仕事場”もあるのだろう。推し量れないほど遠くにあるけど、その場所はこことつながっている。あの場所は異世界にあるわけではない。同じ宇宙空間に確かに存在しているのだ。
 この小さな惑星は常に消滅の危機に瀕している。宇宙というのはすかすかではあるけど、交通事故のようなことは頻繁に起きているらしい。
 その交通事故を未然に防ぐ、私の仕事。
「……だるい」
 だから何、というのが正直な感想だったりする。
 私は普通の人とは違った力を持ってしまったけど、中身はごくごく普通の高校生なわけで、別に使命感とか優越感は持っていない。
 はっきり言えばめんどくさい。
 誰か代わってくれないかな、といつも思ってるし、たまにわがままを言って上層部を困らせたりもする。
 そんな私が、地球の危機を未然に防いでいるのだそうだ。笑い話にもならない。
 まあ確かにあんな巨大な隕石が衝突したら、地球なんて一瞬で終わってしまうだろうけど。専門家に言わせれば接近してくるだけでかなりまずいというから、私が考えているよりもずっと事態は深刻なんだろう。
 だから、なおさら思う。早く私の代わり現れろと。こんな責任感のないやつに任せていい仕事じゃない。もっと正義感あふれる、ヒーローとかヒロインがどこかにいるはずだ。なのになんで私が。
「今日はだいぶ気が立っていらっしゃいますね」
 運転席からまた声がかけられた。やさしい声色の主は、私の父より少しだけ年下で、でも見た目は還暦手前にさえ映る、やや細めの男性だ。
 私は返答に窮した。
「……そう、見える?」
「ええ。なんだか不機嫌そうです」
「……そんなつもりはないんだけど」
 男は慇懃な口調のまま、少しだけおどけたように言った。
「理由を当ててみせましょうか?」
「は?」
「不機嫌な理由」
「……いや、別に機嫌は悪くないって――」
「クリスマスだからでしょう」
 私は口をつぐんだ。
 運転手は少しだけうれしそうに笑った。
「当たったようですね」
「……それだけが理由じゃないけどね」
 私は大きく息を吐き出す。それから窓ガラスに頭をつけて、その冷たさを髪の毛越しに感じ取る。車内の暖気の中で外の冷たさが伝わってきて、そこだけは心地良い。
 街の明かりが車のスピードに合わせて後方へと消えていく。
「いつまでこの仕事続けないといけないのかって、いつも思ってる。だから、クリスマスっていうのも後付けみたいなもので、本当はいつも嫌なの」
 テンションが上がらない状態では、声にも熱がこもらない。だからだろうか。言葉はすらすら出てきた。
 運転手の後頭部が、斜めに傾いだ。
「では、なぜ続けているのですか?」
「そんなのやらされてるからに決まってるじゃない。それに代わってくれる人もいないから、仕方ないよ」
「……代わりが現れても、たぶんあなたはこの仕事をやめないと思います」
 少しだけ、声音が控えめになった。
「なんで」
「あなたはいい人のようですから」
「……意味わかんない」
 私は運転席を睨みつけようとして、やめた。睨みつけるだけのテンションを保てない。
 そうこうしているうちに、車は自宅近くの交差点に着いた。信号待ちの間に私はドアを開け、車から降りる。
「それじゃあね。夜遅くまでおつかれさま」
「ああ、少しだけお待ちを」
 ドアを閉めようとして、呼び止められた。何、と聞き返すと、安っぽいビニール袋を渡された。中には白い箱が入っている。
「……?」
「クリスマスですから、ケーキの一つでもどうですか?」
 紙箱の中身はケーキらしい。私は呆れた。
「いつの間に?」
「あなたを乗せる前に、スタッフの方が用意したんです。いつもお世話になっているお礼だそうで」
「……あ、そう」
 私はなんともいえない気持ちで、その紙箱を受け取った。
「それではおやすみなさいませ。メリークリスマス」
 そう言い残して、車は走り去っていった。
 私はしばらく呆然としていた。しかし不意に強い風が吹いてきて、その寒さにはっと我に返った。
 自宅まで数十メートル。私はその道を、足早に進む。
 希薄化した感情が、少しずつ戻ってくるのがわかる。
 明日もまた仕事だろうか。連絡はいつも突然やってくる。学校は冬休みだけど、気を抜けない。まったく少しは休ませてほしいのに。宿題もあるというのに。
「差し入れ、何持っていこうかな……」
 とりあえず帰ったらレシピを調べてみよう。材料が必要なら朝にも買いに行けばいい。クリスマスじゃなくても、ケーキの差し入れくらいかまわないじゃないか。
 時計を見ると、11時10分だった。
 もう少しだけは、クリスマスを楽しめそうだった。



      ※   ※   ※



たまには毛色が違う話を書いてみたいと思って、突発的に書きました。
ちなみに細かい考証や設定はまったくしておりませんので、どうかあまり突っ込まないでください。



それではみなさま、メリークリスマス。

かおるさとーでした。

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*** COMMENT ***

なんとっ

「たまには毛色が違う話を書いてみたいと思って、突発的に書きました。
ちなみに細かい考証や設定はまったくしておりませんので、どうかあまり突っ込まないでください。」

↑を、先に読んでしまったので(別の日に)、へへへへ、突っ込んでやろう、と思ったのに、その件に関しましてはまったく無知なfateに突っ込みどころはありませんでした…(--;

いや、しかし、これはなかなかファンタジーと言うかSFなのに、日常…って感じがすごく良かったです。
そして、やはり最後に女の子らしいことを考えている描写にいきなり、ふわっと幸せな気持ちになりました。

というか、これ、あり得なくないですな。
隕石消滅が、ではなくて、頭の中に描いたことを現実にするという能力。
これ、実は誰にでも出来る能力なんだそうな。
島根県の某氏がおっしゃっていた。
子どもにさせれば良いんだって。
地球の表面を冷やしてあげたり、汚れた空を綺麗にふき取ったり。

素敵ですね。
ああ、誰かやって~!!!

fateさんへ

コメントありがとうございます。

実はSFとかファンタジーは大好きなのですが、自分で書くとなるとなかなかうまく纏め上げられず、途中で挫折してしまうことがしばしばあります。
でも今回は小ネタだから、とかなりテキトーに書きました。
文中に出てくる装置の名前とかもテキトーですし、数字とか細かい設定なんかも全部いいかげんです。
でもそれくらいの方がスムーズに筆が進むようで……
いつかしっかりプロットを立てて書いてみたいです。

ちなみに私が好きなSF作品はハインラインの「夏への扉」、秋山瑞人さんの「猫の地球儀」、上遠野浩平さんの「ナイトウォッチ」シリーズ辺りです。伊藤計劃さんの「虐殺器官」もいいですね。

ご挨拶

新年明けました。
昨年は大騒ぎをして何気にこちらのブログの質を著しく低下させてしまったのでは…(--; と心配でしたが、どうか懲りずに今年もよろしくお願いいたします。

fateのブログは他サイトに掲載していた作を引き下げてupしているだけなので、今現在真面目に描いているのは一つしかありません(^^;
まだupしていないものも何作かありますし~
現在加筆中です。

はい~。
かおるさとーさんの新作は楽しみにお待ちしております。
が、他サイトにも作品があることを存じておりますので、そちらにもお邪魔いたします。

SF作家さん、おおおお! fateはほとんど知りませんでした。
でも、今年は新しいことに挑戦。
お見かけしたら手を出してみます。
ありがとうございます~(^^)

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