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砂糖を焦がせば薫る日々

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小ネタ・キスの日


 誰かとキスしなければあと一時間で地球が滅ぶと言われた。
 部屋のベッドでゴロゴロしていたら、急に頭の中に変な声が囁いてきたのだ。
 曰く、これは神のお告げである。
 曰く、速やかに己の使命を果たすがよい。
 曰く、相手は異性の人間に限る。
 ……熱でもあるのかと思ったのだけど。
 曰く、これは幻聴ではない。
 曰く、残り時間57分14秒。
 曰く、
「黙りな」
 起き上がってドスの利いた声を聞かせた。
 ……よし、収まった。
 というわけでまた寝ようと思う。
 曰く、これは幻聴では
「わかったから」
 ちくしょう、どうやら現実の出来事らしい。
 私はため息をつきつつ、とりあえずベッドから抜け出して着替え始めた。



 今日は両親ともに出かけていて、家には私一人だ。
 こういうとき、親に言っても信じてもらえるかわからないので、まあ都合がいいと考えるべきだろう。
 残り時間40分弱。
 その間に誰かとキスしなければならないという。
 ……冗談でしょ?
 自慢じゃないけど、生まれ落ちてからの16年、ただの一度も異性とキスしたことなんてない。
 当然彼氏もいない。
 小さい頃に父親とキスしたことがあったような覚えがあるけど、そんなものノーカウントだ。あれは断じて私のファーストキスなんかではない。
 要するに、あと30分かそこらで誰かに私のファーストキスを捧げなければいけないわけで。
 そうしないと地球が滅ぶらしいわけで。
 マジですか。
 頬をつねっても普通に痛い。あまりの現実に泣きそうになる。
 しかし泣き言なんて言ってられない。今は不本意ながら、私の双肩に、正確には私の唇にこの惑星の命運がかかっている。
 時間もないので、髪を軽く梳いて、最低限の身支度だけ整えて家を出た。
 向かう先はお隣さん。
 うちと似たような二階建ての家には、幼馴染みの男の子が住んでいる。
 玄関のベルを鳴らすと、家人が出てきた。
「あれ、珍しいな」
 幼馴染みの少年は私の顔を見て驚いたようだった。
 別々の高校に進んだから、ここしばらく会ってなかったしね。
 会うのは実に半年振り。幼馴染みは、少しだけ背が高くなっているように見えた。中学の頃は私とあまり変わらないくらいだったのに。
 感慨に浸っている場合じゃない。まずは中に入れてもらおう。
「あのさ、上がってもいいかな」
 うわ、なんだこの猫被ったような声。私、こんなキャラじゃないぞ。
「ああ、別にいいけど……」
 彼も戸惑っている様子で、しかしとりあえず中に入れてくれた。
 家の中はひどく静かだった。冷蔵庫と、熱帯魚を飼った水槽のポンプだけが、微かに音を立てている。訊くと、彼の両親もお出かけしていて、今日は一人で留守番だという。なんとも仕組まれたように好都合な展開だ。
「あ、あの」
 ソファーに座った私は、意を決して切り出した。
「……何?」
 向かいに座る彼も、私の様子に何かを感じ取ったのか、神妙な顔で聞いてくれる。
 羞恥に頭が茹で上がりそうになりながら、私は言った。
「わ、わたしと、き、き、きしゅして!」
 噛んだ。
 何やってんの私ー!
 この大事な場面で何を慌てている! ってこんな状況で慌てない奴なんてこの世にいるのか? いや、それにしてもカッコ悪すぎっ!
 彼はぽかんと口を開けている。呆気に取られたような、呆れたような、そんな顔だ。
 ああ、もうめちゃくちゃ変に思われただろうなあ……。もう10年以上の付き合いがある相手に、こんな恥をさらさなければならないなんて。まったくとんでもないお告げを受けてしまったものだ。宗教によっては神託を受けた人間は「聖人」扱いになるんだっけ。私、聖人か。あわてんぼうの。決めた、私生涯無宗教で通す。
「あのさ」
「へ!? あ、は、はいっ」
 彼が急に呼びかけてきたので、私は上ずった声で返事を返した。まったく締まらない。
 幼馴染みは困惑の色を顔に浮かべながら、尋ねた。
「キス、したいの? 俺と」
 あまりにストレートな問いだった。私は肯定しようとするも、うまくいかない。
「あ、えっと、あ、あの、さっきのはその失敗というか、いやでもキスは、えっと、その、したいというか、しないといけないというか、私初めてなんだけど、その、誰とするのがいいかわかんなくて、あ、でも適当に決めたわけじゃなくて、その、」
 言葉を重ねれば重ねるほど、混乱が強くなっていく。言ってることも支離滅裂になっていないだろうか。なんだかとんでもなく墓穴を掘っているような気がしてならない。
 彼の目が、とても真剣なものに変わった。
 その鋭い視線に、私は金縛りに遭ったように固まってしまった。
 彼が私を見つめたまま、ソファーから立ち上がった。
 そのままこちらに近づいてくるのを、私はただ呆然と待つことしかできない。
 目を、逸らせない。
 彼が私の隣に座った。
 その体は、背が伸びただけじゃなく、なんだか前より引き締まったようにも映って、思わず息を呑んだ。
「ずっと好きだったんだ、お前のこと」
「――」
 告白は突然だった。
 なんで、
 何がどうなって、
 私と彼は、ただの幼馴染みだったはずじゃあ、
「うそ、だよね……?」
「本当だ」
 彼の真剣な目が、私を捉えて放さない。
 ……どうして私は、彼を訪ねたのだろう。
 他の、たとえば通りすがりの人よりも、頼みやすいから?
 気軽にできると思ったから?
 でも実際には、あんなに緊張して、少しも気軽じゃなかった。
 そんなの、当たり前だ。
 だって、彼なんだから。
 私だって、彼のことが、
 相手に選ぶなら、彼じゃなきゃ、
「俺も、キスしたい」
 その言葉を聞いて、私はそっと目を閉じた。
 心持ち唇を上に持ち上げて、静かに待つ。
 頬に、彼の温かい手が添えられた。
 手のひらから温もりを受け取って。緊張と羞恥が私の心臓を痛いほどに締め付けて。
 幼馴染みの微かな吐息が、顔へと届き。
「私も……君のこと」
 想いを込めた言葉は、外に出ることなく彼の口付けに飲み込まれた。



(そういえば、どうしてキスなんてすることになったんだっけ……?)
 彼に優しく抱きしめられながら、私はふと疑問に思った。
 きっかけを覚えていない。
 確か、何か大変なことがあったような気がして、それで彼の家を訪ねたんだっけ。
 でも、大変なことってなんだろう?
(まあいいか)
 もうそれ以上は考える気にならず、私は彼の体を強く抱き返した。
 うん。たぶんあれだ。
 終わりよければすべてよし、ってやつ。



          ※     ※     ※



5月23日は「キスの日」だそうです。
詳細についてはこちらを参照ください。



かおるさとーでした。

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*** COMMENT ***

可愛かった!!!

というか。
すみません! 他作家さまの作品を拝読させていただいて、こんなに爆笑したのは久しぶりです。
何がそんなにおかしいのか?
とひたすら爆笑するfateに、大抵の人間は怪訝そうな表情をします。
そうなんです! fateは普通の人が笑わないところで死ぬほど笑い、普通の人がさらりと流す場面でむちゃくちゃ泣きます。それでいて、他の人が笑っているテレビを少しもおかしいと思えない。
はい、すみません。
要するに変なんです。
で、こちらではどこでそんなに笑わせていただいたかというと。
「わ、わたしと、き、き、きしゅして!」
 噛んだ。
 何やってんの私ー!
↑ここです。この可愛さに、超! 痺れました!
結局、誰のお告げだったのかよく分からないところがまた良かった!
fateは謎が残る方が好き!
(↑やはり変だ…)
かおるさとーさんの描く女の子ってみんな可愛い! 超! 可愛い!
‘女’は嫌いだけど‘女の子’が好きな変態fateにはたまらないでしゅ…あ、噛んでしまった(--;

(すみません、騒がしくて…)

fate様へ

コメント、いつもありがとうございます。

騒がしいといいますか、とっても熱い想いがこめられていて、もうめちゃくちゃうれしいです!
この話は、本当に小ネタのつもりで書いたので、あまり起承転結にはこだわっていないのですが、そのぶん勢い重視なので、気軽に読んでいただければそれが最も幸いかと思っています。
当方、日ごろからツイッターをやってまして、そっちのほうでよく記念日ネタを思いつくことがあるのです。
この話もそういう記念日ネタです。キスの日以外にもいろいろ置いてます。

「女の子がかわいい」
この一言をいただけるのが、一番うれしいかもしれません……。
私が書くキャラはほとんど十代の男の子・女の子なので、やっぱりそういう子達はかわいく書きたいと思っているんですよ。
できるだけわざとらしくならないように、「普通の女の子」をかわいく書きたいと思っています。
それがうまくいっているかはわかりませんが……。

連日、fate様からのコメントが届くたびに、ものすごい活力を得ています。
本当にありがとうございます!
騒がしいなんて全然思ってませんので、またいつでもお気軽にお越しください。

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